− エンジン開発の狙い −
(※ 一部カタログおよびマニュアルより抜粋)
シリンダーには、内壁にセラミックコンポジットメッキ処理を施したオールアルミのメッキシリンダーが新採用されました。
この特殊メッキは、高硬度のセラミック粒子(シリコンカーバイド)をニッケル・リンメッキ層中に均一に混入させ、分散被膜を形成させたもので、軽量で耐熱性、耐摩耗性に優れています。
しかし、メッキシリンダーを採用したことで、シリンダーをボーリング ⇒ ボアアップすることは基本的にできなくなりました。
ボーリング後に再メッキ処理を施す方法もありますが、メッキ処理におけるメッキ厚の調整は非常に困難な作業であり、シリンダーという部品に求められる精度で行うのは容易ではありません。
もし頼むのであればこれらに習熟した業者に頼むべきです。
ただし、それでもDT200WRに採用されているメッキと同等の耐久性を持つものができるかどうかは不明です。
また、仮にボーリング ⇒ 再メッキ処理が技術的に可能であるとしても、ボーリング後のボアに合うピストンを用意しなくてはなりません。
当時は、WISECOから"WR200R"用のオーバーサイズピストンが販売されていたらしいのですが、現在は販売を終了しており、入手するのは非常に困難だと思います。
ボアアップに挑戦しようとするときは多分、こちらでつまずくのではないでしょうか。
※純正でピストンに4種類のサイズ(A〜D)が存在するのは、オーバーサイズピストンというわけではなく、シリンダーのメッキ厚のばらつきに対処するためで、排気量が大きく変わる程のものではありません。
どの位の違いかというと…シリンダーサイズの最大誤差が、直径で+0.02mm (66.82mm−66.80mm)ですので、最大で約0.12ccしか違わないことになります。
しかし、たかが0.1ccとはいっても、やはり自分のDTのシリンダーサイズは "A" より "D" の方が嬉しい、というのがオーナー心理というものなのでしょうね(笑)
ちなみに私のシリンダーは多分 "C" です。
(シリンダーサイズの表記はスタンプではなく、刻印にして欲しかった…ヤマハさん)
吸気システムの要ともいえるキャブレーター。DT200WRには mikuni製 Φ30mm セミフラットバルブキャブレーターが搭載されています。
吸気口の断面積を徐々に小さく、すぼめるように設計することで吸入空気の流速を高め、吸気管長を短く設定することが可能となりました。
そのためより多くの混合気をスムーズに掃気ポートに送れるようになり、レスポンスの向上とパワーアップに貢献しています。
また、常時油面が変化する状態にあるオフ走行を考慮して、フロートチャンバーの浮力をアップ。油面変動の追従性が改善されました。
更にレースでの使用も想定し、天候やコースコンディションに合わせて交換が可能なねじ込み式パワージェットも採用されています。
DT200WRのキャブレーターに採用されている 「セミフラットバルブ」とは、板状のスロットルバルブ(フラットバルブ)と円柱状のスロットルバルブをくっつけたような形状で、フラットバルブの長所である「吸気管長を短くできることから得られるレスポンスの良さ」と、その短所である「吸入負圧によるバルブのエンジン側への張り付き」を改善するという、両者の良いところを引き出すことができるスロットルバルブ形状です。
このスロットルバルブ形状は吸気乱流の発生を抑制にも貢献し、より高い吸気効率を獲得しています。
…DT200WRは、いわゆる前期型(3XP1)と後期型(3XP3〜)で、キャブセッティングの初期設定が異なります。
パーツリストを見ると、ジェットニードルとメインジェットに変更を受けているようですね。
特にメインジェットに関しては、前期型(3XP1)の同一モデル出荷中にも変更が行われたようで、順番に、#200(3XP1前期) → #220(3XP1後期) → #240(3XP3以降)、と変更されています。
また、セッティングついても変更がありました。パイロットエアスクリューの戻し回転数が、3XP1は「2回転戻し」なのに対し、3XP3以降は「1と1/2回転戻し」に変更されているのでご注意ください。
DTを購入した当時はこれに気づかず、私の所有する3XP3のキャブをオーバーホールした後、組み上げ時にサービスマニュアル(メイン版)を参考にしてPASを2回転戻しにしたところ、やたらアイドリングが上がってしまったが原因が分からない…と大変困った記憶があります(^^;)
全体的に見て、キャブセッティングは徐々に濃くされる方向に進められており、主にオーバーヒート、エンジンの焼き付き対策であると考えられます。
また、確証は得ておりませんが、前期型と後期型ではキャブ本体の作り自体も異なっているという話も聞いたことがあります。
もしそうであれば、メインジェットとニードルを交換しただけでは、完全な他方の仕様のキャブにすることはできない、ということですね。
更に後期モデルからは、CDIユニット内のマイクロコンピューターのプログラムも変更を受け、YPVSの開度特性や点火時期(?)も変更されているらしいので、単にキャブごと交換すればよいということでも無さそうです。
ベースエンジンとなったDT200Rのエンジンは、高回転域の出力特性が優れていることで好評を得ていました。
そして今回レース参戦を念頭に置いて開発されたDT200WRでは、その優位点を更に引き上げるとともに、中回転域でのレスポンス向上を狙うため、YZと同じコンセプトに基づく吸排気系チューンが施されています。
その一つが補助排気ポート付き3倍速YPVSです。
4ストロークエンジンのようなバルブ機構を持たない2ストロークエンジンでは、排気は素早く確実な掃気を行うための重要ポイント。
排気ポートの高さが一定の場合、或る回転域では最適な排気タイミングであっても、他の回転域では速すぎたり、あるいは遅すぎたりといった問題が生じます。
そこで登場したのがヤマハ独創の排気デバイス "YPVS(Yamaha Power Valve System)" です。
これは写真のような鼓型の可変バルブを排気ポートに設け、それをエンジン回転数に応じてサーボモーターで無段階にコントロールし、排気ポートの高さを実質的に変化させることで常に最適な排気タイミングを実現する、というシステムです。
DT200WRではこのシステムを更に進化させ、サーボモータの開閉レスポンスを従来の3倍に高めるとともに、必要な制御量に合わせてモータートルクを細かく補正。中低回転域でのアクセルレスポンスを更に向上させています。
また、この排気ポートの左右に、バルブ開度が大きくなる領域で作用する補助排気ポートを新設しました。
これにより排気ポート自体のサイズを変更することなく高回転域での排気効率を更に高め、一段とクイックなレスポンスを実現しています。
…このように利点ばかりのように思えるYPVSですが、排気バルブ自体がもつ潜在的な欠点があります。
排気バルブはオイル分を含んだ高温の排気に常にさらされているため、頻繁に高速道路を利用したり、街乗りで低回転を多用するような使い方を続けていると、バルブが固着することがあるのです。
かなり極端な例ですが、「高速道路に向かう途中で渋滞に遭い、低回転で長時間走行(=オイル分がバルブに付着)後、高速に乗ってエンジン回転数高&アクセル開度一定(=高温排気にさらす&バルブ開度一定)」、というのが典型的な例でしょうか。
逆に言うと、低中回転域から高回転域までをまんべんなく使って走行し、バルブを十分に動かしていれば固着の可能性は低くなります。
ただ、人それぞれの使用目的というのもありますし、皆さん全員がそのような走行ができる状態にあるとは限りませんよね。
年数、走行距離、用途等に応じたYPVSの点検 ・清掃を行うことをお勧めします。
ちなみに私も実際にやってみました。 (下記リンク参照 )
バルブが固着すると排気デバイスが効かなくなり、排気バルブが固着した時点のバルブ開度に対応するエンジン回転数のみが有効になります。
ですから、もし「最近やたらと高回転が吹けない!」とか「低回転域のトルクがなさ過ぎる…」などと感じられたときは、YPVSの動作不具合を疑ってみましょう(^^)
バルブが固着したまま走行を続けるとサーボモーターのケーブルが切れたり、最悪分割式になっている2つのYPVSバルブを固定しているピンが折れて、二つのバルブがゴリゴリと擦れ合いボロボロになる(゚д゚lll)といった症状に発展することもあるそうです。
バルブを制御しているサーボモーターにも当然負担を掛けることになり、これが原因でECU内のサーボモーター駆動回路が壊れる危険性もあります(DT200WRではあまり聞きませんが…)。
何かおかしいと思ったら、まず第一にここを疑ってみましょう!
・ 関連項目 → 「YPVS点検/清掃」
DT200WRはオフロードでの走行性能を極限まで高めようというヤマハの強い意志のもとに開発されました。
そのために必要な「軽量化」や「低重心化」、「エンジンレスポンス向上」を高いレベルで実現させるため、電装関係にも思い切った見直しを行っています。
それが、バッテリーレス設計とジェネレーターの小型化、それに伴うフライホイールマスの低減です。
まず点火システムにはDC-CDIを採用しました。
このDC-CDIシステムは、DC12Vを高周波で発振させ、トランスにより300Vまで昇圧することで点火用電源としています。
これにより、エンジン回転数に左右されない安定的かつパワフルな点火性能を獲得しながらも、ジェネレーターからチャージコイルを排除することができ、システムをコンパクト化することが可能となりました。
そしてバッテリーレスを実現するために、従来に比べて約1.5倍の発電能力を持つ小型軽量のACジェネレーターを採用。
多極化と三相交流による発電容量アップで、アイドリング状態でも全電源を供給することが可能になりました。
さらに、ACジェネレーターが小型軽量化されたことで慣性モーメントが約20%も低減され、エンジンレスポンスの向上にも大きく貢献しています。
ローター外径の小型化には当時のヤマハのF1エンジン、OX88の技術も導入されているそうです。
このような徹底的な電装関係の見直しの結果、エレクトロシステムだけで約1.2kgの軽量化を果たしています。
※補助ランプの増設やハイワッテージバルブについては、消費電力が特別に大きいものでなければ賄う余裕はあるようです。
昔、「NSRのヘッドライトをDT200WRに移植するには…」という記事をどこかで見たことがありますが、そこには『H4の60/55Wとかであれば、アイドリングでもそれなりにいける』と書かれていました。
・ 関連項目 → 「バッテリーレス車のアース強化(アーシング?)」
一軸バランサーの装着により、DT200WRは2ストロークオフロード車としてはかなりの低振動を実現しています。
私は他の2stオフといえば、CRMとRMXにしか乗ったことがありませんが、これらと比べるとDT200WRは随分手のひらに優しいですね(笑)。車両の状態にもよると思いますが、RMXは特にひどかった印象が…。
まあそんなDTも、振動でサイドカバー(1型)やサイレンサー(!)が脱落することがあるそうですけど(^^;)
またバランサーだけではなく、新採用のアウタープル式クラッチや新作クランク、新型カムシャフトパターンなども低振動に貢献してます。
なお、バランサーの装着でパワーが喰われているような気がしますが、当時のダートクールの記事によると、振動がひどくなるのでバランサーを外すことはお薦めできないとのことです。
"WR" というネーミングは、モトクロッサーに採用されているトランスミッションの「クロスレシオ」に対する「ワイドレシオ(Wide Ratio)」に由来しています。
クローズドコースを高回転をフルに活用して走るモトクロッサーとは異なり、DT200WRの戦場となるエンデューロコースでは、高回転だけではなく中低回転域を有効に使った走りが重要なポイントになります。
今回DT200WRには、セッティング・耐久性ともにエンデューロを想定して開発された、ワイドレシオのトランスミッションが採用されました。
クラッチ周りでは、YZと同レイアウトのラック&ピニオン式のアウタープル式を新採用しました。
これにより、クラッチ切れの向上と操作荷重の低減を図り、長時間における走行でも楽にシャープなクラッチ操作ができるようになりました。
…と、カタログには書かれておりますが、実際はそうはいかないようです(^^;)
特に1型のDTではクラッチの重さに苦慮されている方が多いようですね。
(使用目的がレースであれば、こちらの方がタッチ、切れ共に良好でいいという方も多いのですが)
3XP3からはパーツ変更により幾分軽くなったので、もし街乗りでクラッチの切れよりも軽さを優先させたいという方がいらっしゃれば、上の写真で丸で囲まれた箇所の部品、「プッシュレバーアセンブリ 」を3XP3以降の部品と交換するとよいでしょう。
パーツナンバーの検索はYAMAHAのオンラインパーツカタログでどうぞ〜。
私は初めから3XP3で街乗り専門ですが、むしろクラッチの切れの甘さの方が気になります。
DRCの「イージーPROクラッチレバー」という製品を使い始めたのですが、これが更にレバー比の関係からクラッチが軽くなる → クラッチの切れが悪くなったので、非常に扱いづらくなってしまいました。
クラッチを元に戻すか、逆に1型のプッシュレバーに交換してしまおうかと考えています。
・ 関連項目 → 「DRC/イージーPROクラッチ装着」 / 「ギアオイル交換」 / 「LANZA用 DRC/鍛造クラッチホルダー+ベアリング入りレバーを流用」
「車体編」に続く…