2010/7/31
※キャリパーを車体から取り外すまでの作業はこちら。
取り外したブレーキキャリパーから、まずはピストンを抜きます。
vol.1でレポートした通り、エアツールをお持ちで無い方は、ブレーキフルードを抜く前にブレーキを適当に作動させて、ピストンをギリギリまでせり出した状態にしておきます。
シールの状態にもよりますが、これくらい出ていれば、手で引き抜くことも可能かと思います。
もしくは受け皿を用意して、ピストンを最後まで押し出し、フルードごと抜いてしまう。
…その方がかえって楽かもしれませんね(^^;)
今回はピストンも交換するので、私はこのように力技で抜きました。
ちなみにDT200WRのブレーキピストンは、中〜大型車のブレーキにみられるような中空構造の金属製ピストンではないので、ハスコーのピストンプライヤーのような工具は使えません。
CRM250、RMX250S、KDX-SR、KLX250、Dトラッカー等他メーカーのオフ系バイクは、フロント:樹脂、リア:金属の組み合わせになっているようですが(※KDXは樹脂製のモデルもあるようです)、使い分けている理由は…分かりません(^^;)
残る方法はエアツールのみ…と思っていたら、ネット上の情報によると、ピストンを抜くのに必要な空気圧は「自転車の空気入れ」レベルでも十分足りるらしく、うまく口金さえ合わせられればそれで代用も可能とのことです!
早速試してみました(^^)/
こちらは管理人が普段使っているラフ&ロード製の「PR123/パワーフロアポンプPRO2」(※絶版品)
バイクのタイヤにも使えるタイプです。
英式、米式、仏式の3タイプに対応しますが、予想通り、どの口金も合いません(-_- )
うーん、ホースで繋いでみたらどうでしょうかね。
試しに、フルード注入用に用意していた内径5mm、外径8mmの耐油チューブを繋いでみます。
何と、キャリパー側も空気入れ側(米式)もほぼぴったり!(゚Д゚ )
…といっても、所詮は単に穴に差し込まれているだけです。このまま圧力を掛ければ途端に抜けてしまうでしょう。
ブリュードスクリューを(0.4kgmで)締め付けて、
もう一人、別の人に手伝ってもらい、両手でしっかりとホースを固定しながら空気を入れていきます。
※後で気付きましたが、ホースを2、3cmくらいに短く切って両者の口金を接続し、空気入れの口金をキャリパーに押し付けるようにして押さえれば、片手で固定できるので、1人でも作業できそうです。
ピストンは…フルードが入っているときのようにニョキニョキ、とは出てきてくれません。
空気入れのハンドルを押し下げると、一瞬ぐっとせり出してくるものの、ピストンシールとの摩擦抵抗を打ち破るまでには至らず、元の位置に引っ込んでしまいます(-_- )
(…ちなみにこの空気入れをマスターシリンダーに見立てることで、大きなストローク量、フニャフニャ感=エアを噛んだ時のブレーキのタッチと置き換えることができるでしょう。)
とりあえず、どんどん空気を入れていきます。
耐油ホースがパンパンに張ってきました(゚Д゚;)
上手く押さえないと、圧力に負けてホースが抜けそうです。
もう限界か!? と思われたその時、
「パンッ」
という破裂音と共に、ピストンが勢い良く抜けて、飛びました 煤i ̄ロ ̄;)
幸い真っ直ぐに抜けたためピストンは無事でしたが、抜け方によってはピストンが損傷するのはもちろん、勢い良く飛び出したピストンで怪我をする恐れがありますから、皆さんが同様のことを行う場合は必ず反対側に適当な当て板等を当てて作業するようにしてください。
ただし、あまり硬いものを当てるとピストンヘッドが変形します。
作業中はそこまで気が回りませんでしたが、たとえば間にタオルなどを挟んでやると良いと思います。
エアもやみくもに入れるのではなく、ピストンの状況を見ながら少しずつ入れるようにしましょう。
キャリパーのシールは他のOリングやオイルシールよりも随分固い(きつい)と思います。
それは他の箇所よりも高い圧力が掛かるという事情ももちろんありますが、実はこの摩擦抵抗により「ブレーキパッドの引きずり」を抑制する効果を得ているのです。
仕組みは、
…ことによって、ブレーキパッドの引きずりが抑えられるというわけです(^o^)
キャリパー内部の状態です。
シリンダー内壁に固体の粒子の付着が見られます。
金属粉ではなく、磨耗したシールのゴムのカス?のようです。
ピストンシールを取り外します。
この手の作業をする際に必ず言われるのは、金属製のドライバーなどでこじってはいけないということです。
しかし、ピストンシールはゴムが硬く、また溝にぴったり嵌まっているので、爪で取り外すのもなかなか難しいです。
柔らかめのプラスチックの楊枝のようなものを差し込んでめくりあげるようにすると、シールおよびキャリパーに傷をつけず、かつ簡単に取り外せると思います。
シールが外れたら、シリンダー内を清掃します。
ブリュードからシリンダーにつながる細いラインは、水を通して洗浄したいところですが、作業後は水分を完全に飛ばさなければなりません。フルードは吸湿すると劣化するため、水分は厳禁です。
私は時間がないので、シリンダー内を毛羽立ちの出ないペーパータオルで拭き上げるのみにとどめています。
こちらは新品のキャリパーOHキットです。
ピストン+シールのOHキットが1,806円で、シールのみだと714円です。
ピストンはフェノール樹脂製で、ブレーキフルードに耐性があり、金属製のそれに比べて軽量という利点がありますが、ゴム製シールとの摩擦抵抗が大きいのが難点です。
…というと、先ほどの「パッドの引きずり」の説明と矛盾しているように思われるかもしれません(^^;)
確かにブレーキの引きずりをなくすためにはある程度の摩擦抵抗が必要になります。
ただ、これが大きすぎると、ピストンの戻り量が必要以上に多くなり、ブレーキレバーの初期ストロークが大きくなる⇒タッチの悪化を引き起こしてしまうのです。
ちなみに取り外したピストンは、交換が必要というほどの状態ではありませんでした。
基本、オンロードの街乗りメインで、リアブレーキを酷使するような状況には無いですからね。
今回は経過年数が年数なので念のため全て交換しましたが、通常はとりあえずキットで購入し、分解してみて交換の必要がなければピストンは残しておいて、次回交換するときにシールのみを注文し、合わせて交換すればよいですね。
ピストンシールを組み込んでいきます。
サービスマニュアルではシールを組み込む際、ブレーキフルードを塗布するよう指示しています。
ところがほとんどの方は、フルードではなくグリスを使われていると思います。
グリスを塗布しないとキャリパーのオイルシール溝が腐食する、というのが一番の理由でしょう。
しかしサービスマニュアルがあえてそこに触れていないのには何か理由があるわけで(塗布したグリスがフルードと混ざることで変質⇒遊離してラインに詰まる、とか)、ただゴテゴテと塗りたくれば良いというものでもないはずです。
ちなみに私は一次シール(向かって手前側のシール)の溝にのみシリコングリスを塗布して、フルードは使わずにピストンを組みつけました。
雨水や泥が浸入するとしてもせいぜい1次シールまでだろうということ、また2次シールがあるので、1次シールのグリスが遊離してもキャリパーシリンダー内に侵入することは無いと考えられるからです。
前置きが長くなりましたが、作業を進めていきます。
一次シールの溝の、特に手前側をシリコングリスで埋めるように塗りつけていきます。
溢れたグリスは拭き取ればいいだけなので、漏れが無いように全周に渡ってしっかり塗付します。
指先を使ってシールを溝にきっちり嵌め込みます。
余分なグリスはきれいに拭き取っておきましょう。
グリスの付着が多いと、ピストン−シール間の摩擦抵抗が少なくなりすぎて、ピストンの戻りが悪くなる恐れがあります。
シールがめくれてしまわないようピストンにもごく薄くシリコングリスを塗り、くりくりと小刻みに回しながらもぐりこませるように挿入します。
途中から一気に硬くなりますが、グリスのおかげで抜くときよりは楽に押し込めます。
…が、滑りが良すぎて、勢い余って最後まで押し込んでしまいました。
だからどうってこともないのですけど(^^;)、キャリパー内部の空間が狭く入り組んでしまい、エアの抜けが悪くなるかも知れないなぁと。ピストン裏のくぼみにエア溜まりができたり…。
エアツール(空気入れを含む)を使える場合は、ほんの少し手前に押し出しておいた方が無難かもしれませんね。(薄く塗付したグリスのおかげで、ピストンはスムーズに出てきます)
まあキャリパー付近でのエア噛みあればエア抜きは楽なので、特段気にすることも無いでしょう。
スライドピンの点検を行います。
スライドピンの先端は六角穴形状になっており、根元はキャリパーにねじ込まれているだけなので、深い傷や段付き磨耗等があれば個別に交換することも、物理的には可能です。
あえて「物理的には」と言ったのは、パーツリスト上ではピンには個別のパーツナンバーが振られておらず、ピンのみでの部品発注ができない(キャリパーassy.でしか注文できない)ようになっているからです。
それでもヤマハ内部では隠し?パーツNo.が振られていて、実は個別注文可能だったりすることがあるので、もし必要であればYSPやヤマハを扱っているバイク屋に直接問い合わせてみてください。
ゴムブーツは劣化、破損の有無を確認後、中をきれいに洗浄し、グリスをたっぷりと注入しておきます。
ブーツを抜くとき、入れるときのコツは、このように…
先が広がっている側(ピンの入り口がある側)のチューブを指で挟み潰して、それを折りたたむように丸めて細くすると、出し入れしやすくなります。
ブレーキパッド等のパーツを組み付けていきます。
ブレーキパッドは以前フロントに使用して感触の良かった、HARDY/KEVLAR PADに交換します。
特に記載はありませんが、パッド表面の様子から、基本はレジンモールド系(ノンアスベスト材、ノンメタル材)パッドであると推測されます。
レジン系の摩擦材(ライニング)は純正パッドに広く使われており、磨耗が早く、耐熱性が低いのが欠点ですが、ローターへの攻撃性が低い、雨天時も良く効く、低温から(走行直後から)制動力を発揮する、ブレーキダストが出にくいなど、通常使用における利点が多く、街乗り中心ならあえてメタル系パッドを選ぶ理由は無いと思います。
HARDY/KEVLAR PADはレジンモールド材にケブラーを混入することでレジンパッドの長所を生かしつつ、耐熱性を高めることに成功した製品(のはず ^^;)です。
取り付け前に、パッドの角をヤスリで落とします。
主な目的は「鳴き」の防止です。
ボロボロと崩れるような感触があるので(^^;)レジンパッドで間違いありませんね。
こちらは以前オークションで落札したWR250Fのフロントキャリパーに付いていたパッドですが、
落とすならこれくらいしっかり落とさないと、すぐに新しい角が立ってしまい効果が無くなります。
特にディスクの回転方向に垂直に当たる辺(※上写真の両サイドの角)には、パッドが自ら食い込んだり、離れたりするような作用が働くため、振動が生じやすく、「鳴き」の主な発生源となっています。
落とすなら、ここを大きくなだらかに落とした方が良いそうです。
また、角を大きく落とすことでパッドの接触面積が小さくなり、ブレーキのタッチが向上するとも言われています。(パッドの寿命は縮まりますが…)
パッドピンの状態をチェックします。
ひどい段付き等は見られませんが、腐食等により少し荒れているので、
2000番の耐水ペーパーで水砥ぎし、均しておきました。
腐食痕は少し残っていますが、引っかかりはなくなりました。
このように、ある程度の荒れは研磨により除去できます。
ただし研磨し過ぎてピンが痩せると、今度は固定しているパッドにガタが生じ、鳴きの原因になることがあります。
パッドピンはあくまでも消耗品ですから、状態が悪ければ迷わず交換しましょう。
パッドスプリングを組み付けます。
このパーツは組み付け方向を間違えると、ブレーキの感触がおかしくなるそうです。
取り外し前に装着状態を写真などで記録しておくと良いと思います。
ブレーキパッドの取り付けは、キャリパー本体の車体への取り付けと同時に行いました。
作業レポートはこちらです。
ブレーキキャリパーのOHは、附随する作業(取り外し、組み付け、エア抜き)が面倒なだけで、キャリパー本体に関する作業自体はそれほど難しくありません。
エア抜きも、たいてい問題になるのはマスターシリンダー内のエア噛みで、キャリパー側のエア抜きは比較的容易です。
マスターシリンダーをOHするなら、キャリパーもついでにやってしまいましょう (^o^)/