2006/5/4
今回はフロントホイールハブの組み上げを題材にして、saki流ベアリング圧入法を紹介します。
まず、素材として用意したものは、ハブ、ベアリング×2、ベアリングスペーサー、オイルシール、メーターギアユニット、ブレーキ側ホイールカラーです。
次にベアリング圧入のために必要となる材料を紹介します。
使い方や注意事項については次章の「作業手順」で、詳しく説明していきます。
それでは実際の作業に入ります!
ベアリングを圧入する前に、まずはベアリングの向きを確認します。
ベアリングの型番など、文字が刻まれている側が手前になるように組み付けます。
また圧入の際は熱膨張利用して、受け側のハブを熱し、挿入するベアリングを冷却しておくと圧入しやすくなります。
…が、効果が生じるくらい熱するとなると熱くてまともに作業できないでしょう(※電熱線ヒーター等で、掛けた水滴が一瞬で蒸発するくらいまで熱すればスポッとはまるらしいです…)し、私のやり方では各種ツールのセッティングに時間がかかるので、素材を冷やしたり暖めたりしてもすぐに常温に戻ってしまいます。
プロの作業では当然に行われる工程ですが、フロントホイールベアリングは小さいため圧入にそれほど苦労しませんし、DIYレベルではあまり効果がないかもしれませんね。
それでは自作工具のセッティングに入ります。
こちらは基本セッティング後の全景です。
分かる方にはこの時点でネタバレしてしまうと思いますが…(^^;)、ボルトを締めこむときの応力を利用してベアリングを押し込む仕組みです。
マグネトプーラーやスプリングコンプレッサーの原理と、基本的には同じです。
ツールの組み方は、
木材を受けに使用することで、ストッパーの役目を果たしているナット付き鉄板がほんの少し木材に喰い込み、共回りを防止します。(※もちろん、ナット+ワッシャ(ソケット)+メガネレンチの組み合わせでも代用できます。しかし、「作業性の良さ」と、「より垂直にベアリングを圧入する」という観点から、このような丈夫で平らな板状のストッパーにこだわりました)
この状態でボルトをねじ込み、ベアリングを押し込んでいきます。
ホイールベアリング程度であれば、ほとんど抵抗無く圧入できるはずです。
このとき注意しなければならない点がいくつかあります。まず、
・ ベアリングは必ず外輪に力を掛けて圧入れする。
⇒ 組み合わせるワッシャはベアリング外輪のみと重なるサイズを使用すること
ワッシャのサイズが小さいとベアリング内輪のみに力が掛かり、ベアリングの変形を引き起こす恐れがあります。
巷では「古いベアリングを押し当てると良い」という話をよく耳にしますが、古いベアリングを押し当てただけでは結局その内輪のみが変形し、下の新しいベアリングの内輪を押し出すので同じことになります。
ワッシャサイズがうまく合わないときは、色々なサイズのワッシャを複数枚組み合わせたり、ソケットなどワッシャ以外でも使えそうなものを探して、自分なりに加工して組み合わせてみると良いでしょう。
そして、
・ クッション材は2×4(または1×4)材のような丈夫な木材を使用すること。
軟弱な木材では変形、折損する恐れがあり危険です。また、大きく歪むとベアリングが垂直に圧入されません。
もう一つは、
・ ベアリングが垂直に入っているか、ベアリング押さえ用のワッシャがハブのベアリングホール側面に引っ掛かっていないかを十分に確認しながら作業をすること。特に圧入初期はベアリングの位置が不安定なため要注意です。
初めて挑戦したときは圧入時のボルトの締め込みが堅く感じられ、管理人も「何かが引っ掛かっているのでは?」と心配になるほどでした。
しかし逆に慣れてしまうと、今度は本当に何らかの引っ掛かりがあったとしても「まあこんなものだろう」と、気付かずにボルトを締め込んでしまう可能性があります。
ベアリングが垂直に入っていなかったり、ベアリング押さえ用のワッシャがハブのベアリングホールやオイルシールホール側面に引っ掛かっていると、ベアリング本体やハブのベアリングホール、オイルシールホール側面を損傷してしまいます。特にオイルシールホールの傷はシール不良を引き起こす原因となるので要注意です。
また、ベアリングの圧入位置が深くなるにつれて、ベアリング外周とハブの受け側との接触面が大きくなり摩擦抵抗が増えるため、より締め込みに大きな力を要します。
そのため、ベアリング圧入の「終点」が非常に分かりづらいのが難しい点です。
ベアリングが圧入されていくときの「カリカリ」という音と、手に伝わる感触を手がかりに判断し、慎重に締め込んでいってください。
ベアリングの大きさによってはかなりの力が必要になることも…。
それでも無事、挿入することができました!
特に難しいところもなく拍子抜けされたかもしれませんが、反対側はそうは行きませんよ〜 ( ̄ー ̄)フフフ
ホイールハブのベアリングとベアリングの間には「ベアリングスペーサー」というパーツが入ります。
これよりベアリングの位置が定まり、ホイール全幅を一定にすることができるという必要不可欠なパーツなのですが、実はこいつが曲者です…。
左右のベアリング圧入が緩すぎると、アクスルシャフトを締め付けたときに、ベアリングの内輪がスペーサーとの余分なクリアランスの分だけ内側に押し込まれ、変形した状態でベアリングを回転させることになります。
また、きつく圧入しすぎても同様のことが生じます。この加減が非常に難しいのです。
ですから人によっては、途中までは圧入装置を使い、最後の仕上げはハンマーで少しずつ打って微調整をする、という方もいらっしゃるようです。
ハンマー打ちの場合は、ワッシャの上に古いベアリングを当てたり、ベアリング外周と同じサイズのソケットを当てて打ち込むことになると思います。
私は、古いベアリングも、打ち込みに使える使い古しのソケットも手元になかったので、最後までこの圧入ツールを使い仕上げました。
更に、YZのホイールスペーサーは位置を固定するための「つめ」が付いていないため、ベアリング圧入中の位置が定まりません。
ちょうど中心で固定させるために、今回は私はアクスルシャフトを圧入ツールとして使用しています。
もちろん20mm径のボルトがあればよいのですが、これは一般的なホームセンターでは入手できないでしょう。※ アクスルシャフトをツールとして使うのは本来は厳禁です
アクスルシャフトには六角のヘッドもありませんし、ねじ山部分も少ないので圧入ツールとして使うのは大変です…。
ありとあらゆるパーツを組み合わせ、半ば強引に圧入を完了させました (^^;)
あとは、オイルシールとメーターギアユニットの組み付けを残すのみです。
オイルシール装着前に、ベアリングにグリスをたっぷりと塗布しておきましょう。(刷り込むような感じで)
今回はリチウムグリスが無かったので、シリコングリスで代用しました。モリブデングリスのように粒子を含むグリスはベアリングを磨耗させるのでX、あまりに堅いグリスも回転抵抗が大きくなるのでXです。
オイルシールもベアリング圧入と同様の技を使って圧入してもよいのですが、シールの側面はゴムで滑りやすく、垂直に挿入するのはベアリングよりも難しかったりします。
ちょうど良い大きさのワッシャや古いオイルシール等を押し当てて、手で圧入するのが手っ取り早く且つ確実でしょう(^^;)
なお、手で挿入する場合は、オイルシールの側面に揮発性のビードクリームを薄く塗付しておくと、より楽に装着できます(^‐^)
最後はメーターギアユニットの取り付けですが、取り付け前にハブのメーターギア受け部のエッジをヤスリ等で丸めておくことをお勧めします。
バリがかなり残っており、そのまま装着するとメーターギアのオイルシールリップを痛める恐れがあります…
これで完成です!
反対側のベアリング打ち込みに苦労したため、作業時間は準備も含めて1時間ほどかかりました。
難しいのはベアリングの圧入加減だけですが、ベアリングは非常に繊細なパーツですので心配な方はショップに任せた方が良いでしょう。
専用工具があれば非常に楽な作業ですので、工賃もそれほどかからないはずです。