diagram of travel performance curve 
/ 走行性能曲線図

  • 「走行性能曲線図」について説明するコーナーです。(※図表はカタログを参照しました)
  • 私の専門外の知識も多々ございますので記載の情報は完全ではないかも知れません。間違っている点などありましたらご指摘よろしくお願いいたします。

(1) 駆動力曲線その他、走行性能曲線の基本事項について

走行性能曲線図左図はDT200WRの「走行性能曲線図」です。

まず、1速、2、3…と振られたグレーの直線ですが、そのギアにおけるエンジン回転数車速の対応関係を表しています。
同じギアでエンジンの回転数を上げていけば、当然、走行速度は速くなり、またその間の減速比は一定であることから、両者は比例関係=直線で表されます。

同じく1速、2…と振られた赤色の曲線は、各ギアごとの後輪駆動力車速の関係を示しており、「駆動力曲線」と呼ばれています。
駆動力とは、駆動輪がエンジンからの動力を得て回転するときに地面を蹴る、その強さと考えてください。
ここでは駆動輪が後輪ですので、後輪駆動力と呼びます。

ドライブシャフトが回転しようとする力=トルク[kgf・m]をタイヤ半径[m]で割ると、タイヤが路面を蹴る力=駆動力[kgf]となる、と考えていただければ分かりやすいと思います。
タイヤ半径[m]は一定ですから、駆動力曲線は基本的にはエンジンのトルクカーブと同形状になります

また、この2つの直曲線から車速を消去して、エンジン回転数と後輪駆動力の関係を求めることもできます。
以下、1速/8000rpmの時の後輪駆動力の求め方を例として記します。

走行性能曲線図/車速とエンジン回転数1. 回転数と車速の対応関係を表したグレーの直線から1速/8000rpm時の車速を求めます。(⇒ 40km/h弱)

2. その車速に対応する後輪駆動力を、駆動力曲線(赤色)から求めます。
これは回転数から速度を読み取るときに速度軸へ下ろした垂線(の延長線)と、駆動力曲線が交わる点から求められます。(⇒ 210kgf弱)

すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、念のため補足しておきました。

(2) 走行性能曲線における勾配とは

走行性能曲線図/走行抵抗曲線次に、灰色の曲線とそれに振られた「〜%」という数字について説明します。

まず、この0%、10%…という数値ですが、これは勾配の大きさを表しています。
勾配とは、簡単に言うと上り坂の「角度」のことですが、勾配10%というのは角度10°の坂…という意味ではなく、ある地点から水平方向に「水平距離で」100m進んだときに、垂直方向に「水平面から」10m高くなっているような坂を表しています。(つまり10%、割合でいえば、0.1ということです)

これはtan θ の値と θ の関係そのものです。
(θ に入るのは「rad.(ラジアン)」ではなく「°(度)」ですが)

勾配の求め方

右の図をイメージしていただければ分かりやすいと思います。

45°の坂はtan 45°=1ですから、100%の勾配ということになります。
90°の坂(ようするに崖…)であれば、tan 90°= +∞となり、勾配の%値は無限大です。
ちなみにDT200WRのカタログ上の限界登坂能力は30°、つまり57.7%の勾配です。
(※ 「%」から「度」に数値変換するには関数電卓が必要になりますが、こちらのサイトで簡単に調べることが出来ます。)

しかし登坂限界30°、と言われても、ただ数字を見ただけではあまり実感が湧きませんよね。
人によっていはたいしたことないなぁと感じられるかもしれません(^^;)
ただ実際に坂を目の前にすると、たいていは数字以上に急に感じられるから不思議です。

スキーの経験のある方なら分かると思いますが30°の斜面はなかなか急です。
(上手な人にとっては大して急ではないかも知れませんけど…)
さらに、一般のスキー場ではほとんどど見られないとは思いますが、45°の斜面などになると、体感的にはほぼ落下状態です!

という私の説明こそ実感が湧きづらいですよね(^‐^;)
先程紹介したサイトでは分かりやすい例があげられていますので、そちらをご覧ください。

…さて、長々と説明してしまいましたがこの表にある数値では、

  • 10%=5.71°
  • 20%=11.31°
  • 30%=16.70°
  • 40%=21.80°

となっております。

最初から「 °」で書いてくれていれば分かりやすいのに、という気もしますが、むしろ「%」表記の方が業界標準なのですね。
ですから余計に一般の人はこの表を見ようとしない ⇒ 最近のカタログでは省かれてしまうのでしょう…。

走行性能曲線図/走行抵抗曲線

次は、グレーの曲線について説明します。

こちらは「走行抵抗曲線」と呼ばれるもので、ある車速に対応する走行抵抗の値を、先程解説した勾配の大きさごとに計算して求めたものです。

つまり、傾斜 a %の坂を、時速 x km/hで走っているDTが受ける抵抗の合計はいくらか?を表しています。
傾斜を一定値として取り、その傾斜の坂をDTが走るとき受ける抵抗力の合計を様々な速度について計算し、それを上り坂の角度ごとにプロットして曲線として描いたものです。

走行抵抗 = ころがり抵抗(+加速抵抗)+空気抵抗+登坂抵抗

走行抵抗中のうち「空気抵抗」は速度の2乗に比例して大きくなるため、走行抵抗曲線はこのように放物線の一部として描かれます。
この走行抵抗曲線と駆動力曲線との差が、プラスで且つ大きいほど加速の余力があるということがいえます。

(3) 走行性能曲線図の活用

走行性能曲線図の見方本題ですがこの図の見方を説明します。(やっとか…)

先程も述べたように、駆動力曲線が走行抵抗曲線を上回っている場合は、駆動力に余裕があり、更に加速できます。
逆に走行抵抗曲線が駆動力曲線を上回っている時は、抵抗力が勝っており減速してしまいます。

これらが意味するところは、「アクセル開度が一定(全開)であれば最終的には車速は駆動力曲線と走行抵抗曲線の交点に収束する」ということです。
つまり、その点こそがその勾配、そしてそのギアで出せる最高速となるわけです。

具体的な数値で考察してみると(右図参照)、平坦な路面(勾配=0%)を6速ギアで走行する場合の最高速度は約145km/hであることが分かります。
またその時のエンジン回転数は約9000rpmであることも同時に読み取ることができます。

※ その車の最高速が必ずTOPギアで出るとは限りません。ギア比の設定(=駆動力曲線)と車体の設計(=走行抵抗曲線)によっては、より低いギアで最高速が出ることもあります。
AT車のOD(オーバードライブ)が一番身近な例ですね。

オーバードライブとは60〜100km/hでの燃費稼ぎを目的とした極端に減速比が低いギア(減速比が1.000以下になる増速?ギア)と私は認識しておりますが、その減速比があまりに低いため、走行抵抗が二次曲線的に増加してくる高速域ではトルクの上昇よりも走行抵抗の増加が勝り、エンジン回転数的には余力があるのに加速できなくなるという状況に陥るのです。
従って、それより低いギアの高回転域の方が駆動力に余裕がある場合には、そのギアで最高速が出ます。

走行性能曲線図の活用 1…話を戻します。

違う視点から捉えれば、例えば20%勾配(約 11°の上り坂)という条件下においては、走行抵抗曲線が常に5速、6速の駆動力曲線を上回っているため、5速、6速ギアではもはや加速することはできない、ということもこの表から読み取ることができます。

走行性能曲線図の活用 2また、駆動力曲線と走行抵抗曲線の差の大きさが加速力の余裕の大きさを表していることから、平坦な道(つまり勾配0%の坂)で80km/hから加速するとき、5速と6速では加速力がどの位違うのか、といったことも比較することができます。
もちろんその時のエンジン回転数を知ることもできます。

(4) 走行性能曲線図の活用法

最後にもうひとつ、走行性能曲線図の活用法を紹介します。
走行性能曲線図を参考に、シフトチェンジポイントの目安となる速度・回転数を決めることができます。

走行性能曲線図の活用 3右図は走行性能曲線図の一部を拡大したものです。

一般的なマニュアルトランスミッション車では、基本的に低・中回転域の駆動力は低いギアの方が大きく、より力強く加速することができます。

そのままエンジン回転数を上げていくと、一段上のギアの後輪駆動力曲線と交わる点で両者の後輪駆動力が等しくなり、さらにエンジン回転数を上げると、それ以降は後輪駆動力の大きさが逆転することから、現在のギアでそれ以上回転を引っ張ることは非効率であることが分かります。

従って、この二つの駆動力曲線の交点(速度・回転数)がシフトチェンジのタイミングの目安になると考えることができます。
ただ実際には、エンジン回転の慣性力や変速操作のタイムラグもあるので、シフトチェンジはその少し手前で行うのがベターでしょう。

この方法の利点は、エンジン回転数だけではなく、車速からもシフトチェンジのタイミングを判断できるため、タコメーターのついていないDT200WRのようなオフロードバイクでも使える点です。
ただし、スプロケットの歯数を変えたりしている場合は、それに合わせて走行性能曲線図も書き直す必要があるので注意してください。

なお、DT200WRの1速と2速のようにギア比の間隔が非常に大きい場合、駆動力曲線の交点が存在しないためこの方法は使えません。
まあ同じバイクにずっと乗っていればシフトアップのタイミングなんて体が覚えてしまうという人がほとんどでしょうけど(^^;)、参考までに。